株式会社スロウル インタビュー

株式会社スロウル

代表取締役平賀 丈士ひらが たけし

リノベーションは、昔の大工さんと今の大工さんのコラボ。大事に受け継いだ家をきちんとリニューアルし、アレンジしてあげれば、昔のものも無駄ではなくなる部分が多いはずです。今の技術を駆使しつつ、昔の手づくりの良さも感じられるのは、すごく豊かなことではないでしょうか。

2020年に創業10周年を迎えたスロウル。創業者で代表取締役の平賀丈士氏は広島県出身ながら、自身のライフスタイルや価値観をフルに反映した「北海道スタイル」のリノベーション住宅を提唱しています。IT業界から未知の世界に飛び込んだという平賀氏に、起業までの経緯や今後の取り組みなどについてうかがいました。

monocla株式会社 執行役員兼事業戦略室長

山田 真史やまだ まさふみ

IT業界で活躍 オーストラリアでワーキングホリデーも

山田

もともとはIT業界で働かれていたとお聞きしました。

平賀

子供の頃からコンピューターが好きで、将来はIT業界で働こうと決めていました。地元の工業高校に入学し、福岡の工業大学を卒業。それから3年間、システムエンジニアとして勤めたのですが、「海外で仕事をしてみたい」という思いが募り、オーストラリアで1年間のワーキングホリデーを経験しました。最も勉強になったのは、お金を使わず豊かに暮らす現地の人々のライフスタイルでした。

山田

帰国後の生活拠点に北海道を選ばれたのは、なぜだったのでしょう。

平賀

北海道の大自然には、子供の頃から憧れていました。ムツゴロウ動物王国が舞台のテレビ番組をずっと見ていて。そんなことから、バックパックひとつで降り立ったのが札幌です。市内のIT企業を回って求職活動を重ねた末、その中の1社が採用してくれました。
ワーキングホリデーと同様、北海道も観光で数日訪れるのではなく「しばらく住んでみたい」と思っていました。実際に来てみると大雪が大変だったりもしましたが、だんだん慣れ、土地の良さも分かるようになったという感じです。

山田

サラリーマンを辞め、起業しようと決断されたきっかけは。

平賀

週末はドライブやキャンプに出掛けたとしても、平日は陽の当たらないビルの中で仕事をする毎日。「自分の生き方をとは」と考えたとき、北海道に来た理由は「自然が大好きな自分のライフスタイルに浸るため」だったという原点を思い出しました。
もちろん、そのままサラリーマンで居続けるという選択肢もありました。しかし、ITの仕事に情熱を持てなくなり、少し息苦しさを感じていたのも確かです。振り返ってみれば、大学時代から「リーダーになりたい」「自分が何かを率先してやりたい」という思いも持っていました。

「ライフスタイルを貫きたい」と起業 不動産賃貸の経験も生かす

山田

なぜ、未知のリノベーション業界に飛び込もうと思われたのですか。

平賀

サラリーマン時代、「収入の足しに」とサイドビジネスで不動産賃貸業を始めていました。安い戸建て物件を購入し、DIYでお金をかけずにリフォームをしてから貸すという仕組みです。
そこで、不動産を通じて自分の好きなライフスタイルを活かしたデザイン、暮らしを提案し、皆さんにお見せすれば、100人に1人くらいは「いいね」と言ってくれるのではないかと思い付きました。札幌は人口約200万人の都市ですから、年に2軒か3軒でも家を造れれば生活はできそうだと考え、挑戦してみることにしたのです。

山田

IT業界からの「異業種参入」はドラマティックです。周囲の反応や当時のお気持ちなどを、お聞かせください。

平賀

セミナーなどでも「なぜ急に異業種から」というような質問を受けます。不動産賃貸業を経験していたのに加え、リフォーム・リノベーションをするというところまで半歩前に進んでいたのが良かったのではないかと思っています。ライフスタイルを活かす仕事に行き着いたというのは、オーストラリアでの経験も含めてすべてつながっている気がします。
IT業界は知りすぎているばかりに固定概念から逃れられないと考え、起業しようとは思えませんでした。建設業界は、知らなかったからこそ飛び込めたのだと思います。知っていれば当然、恐怖心もわいてくるでしょうし。自分が創り出すものに皆さんが喜んでくれたり驚いてくれたりという、プラスのイメージしかありませんでした。

山田

とはいえ、創業時はやはりご苦労されたことも多かったのでは。

平賀

もちろん、いきなりすべてのことをできるわけはなく、周囲にすごく助けを請いました。設計士の友人と一緒に図面を書いてもらったり、塗装屋さんにも設備屋さんにもいろいろと質問したり。とにかく何でも教えてもらうというのが、創業から3、4年くらいは続きました。

懐かしくて新しい 暮らしと住まいを融合した「北海道スタイル」

山田

御社は「北海道らしい家」というコンセプトをお持ちかと思います。それは何か、北海道のイメージのようなものを形にされているのでしょうか。

平賀

いわゆる工業製品より手作りの質感が好きで、「北海道らしい家」はそうした質感を味わえる木の素材などを組み合わせたものです。そのような住まいには薪ストーブもあるといいなと。外の世界から閉ざされた冬の間、寒くて暗い部屋に薪ストーブの火が灯ると、すごくホッとしますので。
そんな暮らし方を含めた住まいが、自分の中での「北海道スタイル」ではないかと定義したという感じです。

山田

火が見えて木があってというのは、まさに昔の北海道の家のイメージで、琴線に触れるものがあります。昔の家は機能的には足りないのかもしれませんが、それを現代の人が不便なく住めるようにしたのが御社の家だと感じました。基本的なスタイルにも統一感を感じます。

平賀

天井にしても床にしても、木造の家ならテイストはほぼ一緒です。古民家風に寄せたり、明るめでかわいい雰囲気にしたりというのはありますが、筋は共通しています。
「いろいろなパターンができます」というわけではなく、「このスタイルですけど、よろしければどうぞ」というような。お客様に対して「そんなに多くのスタイルはできませんよ」というのは、最初に言うようにしています。

山田

もちろん、御社にいらっしゃるお客様は、まさにその「北海道スタイル」を求めているのではないかと。

平賀

マーケティングは詳しくありませんが、強いて言えばペルソナマーケティングは分かります。自分の個を出していって詳細なディテールにすると、表面的にマスを狙ったような商品とは違うものになります。
「本当にこの人が好きなもの」というレベルまで落とし込めますので。それはペルソナマーケティングと同じことのように考えています。

山田

「本当にこの人が好きなもの」というのが、ペルソナとして強く出ていると感じます。それに共感してくれるお客様が続々と来てくださっているということではないでしょうか。

平賀

確かに、マーケティングのペルソナは自分なので分かりやすいです。自分が好きかどうか、どんな暮らしをしているか、会社から帰ったらどうするか、そういうものを全部イメージできますので。「いいね」と言ってくれるのは100人に1人でいいと思っていたのが、ふたを開けたら100人に10人、15人という感触だったので、意外さも感じます。
裏を返せば、家造りの選択肢があまりなかったのではないかとも思えます。コスト重視の建売住宅が普及する中で、うちのような会社から新たなスタイルの提案が出てきて「あれっ」と驚いたという。しかも、リノベーションという切り口もあったので、差別化できたのかもしれません。
わが社のリノベーション価格は建売住宅より高い場合もあるのですが、最近は「同じお金を出すならこだわりたい」「自分が好きなものを組み合わせたい」という方が多いのかなとは思います。価格競争をするなら、普通にリノベーションをして「新築より安くできますよ」というのが正しい戦略なのですが、自分は「ありきたりの新築は嫌だけど、注文住宅には手が届かない」という層をターゲットにしていますので。

山田

リノベーションは新築より安いという印象もあると思いますが、御社は新しい価値、住みたい家をつくるという目標に重きを置いています。そこに共感するお客様が来てくださっているというのは、そうした姿勢がぶれていないからだと思います。

平賀

建物の構造が持っている本来の強さにも助けられています。古いというだけで壊して捨てるのは、あまりにももったいない。日本は経済が発展し、建材もそろったおかけで、「築30年で建て直しましょう」というサイクルが常識になってしまいました。しかし、木造の家であっても、腐っていなければ100年以上持つのです。本当なら「直しながら使えば大丈夫」と考えるのが当然のような気がします。
リノベーションは、昔の大工さんと今の大工さんのコラボ。大事に受け継いだ家をきちんとリニューアルし、アレンジしてあげれば、昔のものも無駄ではなくなる部分が多いはずです。今の技術を駆使しつつ、昔の手づくりの良さも感じられるというのは、すごく豊かなことではないでしょうか。

山田

そう思います。昔と今のコラボ良いですね。

平賀

もちろん、リノベーションには家造りのコストを下げる狙いがあるのは確かです。とはいえ、単に新築より中古が安いという概念は間違っていると言えるでしょう。歴史を刻んだビンテージが新品より高価なのは当然です。住宅もそういう視点で見てほしいと思っています。

モデルハウスで打ち合わせ 素材の経年変化を確認できる安心感

山田

施工に入るまでの流れなどについて、ご説明いただければ。

平賀

10人のお客様がいらっしゃったら8人は気に入っていただけますが、最も大変なのは物件選びです。基本的にお客様自身に探していただくのですが、週末などに一緒に物件の下見に行くこともあります。その際、自分はインスペクションを担当し、床下をのぞいたりコンクリートの強度をチェックしたり。「キッチンはここでいいですか」といった話もします。具体的なプランニングは、物件購入後に始めるという流れです。
設計はすべて自分がこなしていますが、あくまでも工事請負契約の一部としてということになります。「リフォーム工事をお願いします」という契約の中に、デザインやプランニングも含まれている形です。

山田

顧客対応で、心掛けている点などはございますか。

平賀

例えば、モルタルを塗ったら乾燥してひびが入ることもあります。そうなれば「直してください」「どういうことですか」などと詰め寄られる可能性もあるのですが、モデルハウスで実物を見ながら打ち合わせができるおかげで、そうしたクレームを半減できています。
経年変化したモルタルを事前にお見せしておくことで、あらかじめ「こういう風になります」ということを説明でき、その上で「気になってひどい所は埋めてもいいですよ」といった話もしています。
実物を見ながら、良い面ばかりでなく、歳月とともに変化していく部分についてもお話しできる環境があるというのは、とてもありがたいことと感じています。

夕張の空き家改築で「分離発注」に挑戦 低予算の施工ニーズに対応

山田

今後、新たに考えていらっしゃる取り組みなどがあれば、お聞かせください。

平賀

夕張の改築現場で、分離発注に取り組みます。お客様が建築、設備、電気などの各業者に直接発注する手法で、わが社はノータッチ。コンサルタント料だけ頂くというスタイルです。工事請負契約に含まれる利益の取り分は減りますが、工事の責任はある程度、発注元でもある施主が直接負うことになります。「コストは下がる一方、自分の責任は重くなりますよ」という方式を、新たな選択肢として示そうと決断しました。
分離発注は設計事務所主導で取り組むケースが多いのでしょうが、リノベーションでも取り入れて「プロジェクトリーダーは施主」というスタイルを取り入れてみようと。家造りは本来、施主自身がそれくらいの意気込みを持って関わらなければならないのではという思いもあります。

山田

メリットとデメリットを提示した上で発注方式の選択肢を増やすという手法は、新しい形だと思います。

平賀

もちろん、施工知識の乏しい施主と、職人の間に立つコンサルなりマネージャー的な立場の人がいなければ現場を回すのは難しいと思いますので、その役割はわれわれが担います。
小さな住宅などの工事を請け負った工務店が「低価格でやりたい」というお客様の要望を満たそうとする場合、将来的にはSNS上でチームをつくるようになるだろうと確信しています。つまり、職人とマネージャー的な立場の人のマッチングです。
特に、今回の夕張のように低予算のプロジェクトの場合、施主が業者に「全部お任せするのでよろしく」という従来のやり方ではコストを抑え切れなくなるでしょう。

山田

ちなみに、夕張の改築工事は、どのようなプロジェクトなのでしょうか。

平賀

ブロック造の空き家をレストラン兼民家に改築します。オーナーは「生まれ育った夕張でレストランを開きたい」という思いが強く、新たなまちおこしとしても注目を集めています。 わが社としても、このプロジェクトに関わることで何か新しい道が開けるかもしれないと期待しているところです。もちろん、ひとつの店だけでまちおこしができるわけではありませんが、夕張がどうなっていくのか、どのような波及効果が生まれるのか、これから見ておかなければならないことが多くあると思っています。

山田

最後に、monoclaへの期待などをお聞かせいただけたらと思います。

平賀

活発な情報発信に期待しています。マスメディアは大衆受けするニュースを中心に流しがちですが、それ以外にも本当に面白い話題はあるはずです。それを出していけるのが、ネットメディアなどの強みかなと思います。ぜひ、頑張ってほしいですね。

株式会社スロウル 代表取締役

平賀 丈士ひらが たけし

広島県呉市生まれ、大学を卒業後、IT企業に就職しシステム開発に携わる。その後、このまま普通のサラリーマンで終わりたくないと一念発起し、オーストラリア大陸一周1万2千キロのひとり旅に出る。帰国後、札幌のIT企業に就職。その間、副業として3年間で中古戸建てを5棟取得。無借金で平均利回り50%をたたき出す大家となる。
2010年、北海道スタイルのリノベーション住宅「スロウル」創業。自然とともに生活できる、そんな北海道らしいライフスタイルを実現できるような、ワクワクする家を提供し続けている。

株式会社スロウル

  • 本拠地 004-0865 北海道 札幌市清田区北野5条3丁目12-14
  • 休業日 日祝日
  • 担当 平賀丈士
  • 対応エリア
    • 北海道
    • 札幌市
    • 江別市
    • 石狩市
  • ここが強み! 現代の北海道らしい家、部材を活かす独自デザイン、人の手がつくるあたたかさ、当社ならではの家(場所)提供します
株式会社スロウル

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